願かけ絵馬の考現学
〜第二十四講〜








 
病気が早く良くなり、同期の皆と
無事修士を修了できますように。
家から近い所にある製薬企業の
研究職に就職できますように。
多くの画期的な新薬を開発して
多くの病のある人々を苦境から
開放(ママ)できますように。
大野 由香里 
[山口市 多賀神社
  この絵馬の願主は、第二十三講で、わがまま言いたい放題のお願いをしていた女性と同一人物である。
名前、筆跡からして間違いないし、同じ日の奉納である。
つまり、2枚(という数え方でいいのかどうか…)いっしょに奉納した訳である。
「実家に近い所に住んでいる大富豪の三男で包容力と思いやりと理解力があり、男らしく頼もしくたくましく長身でスマートでハンサムな」理想の男性と巡り逢いたいなどという、もう、能天気とすら言える願いと、この病気平癒や将来の仕事に対する真剣な願いとの間の落差、これはどう解釈すれば良いのだろうか。
また、このふたつの願かけ絵馬に記された内容の整合性といったものは、どのように考えるべきであろうか。
共通しているのは、実家近辺希望というキーワードだけである。
もちろん、大富豪の三男ウンヌンのほうにも、別に三食昼寝つきの主婦稼業をしたいとは書いていないから、正確に言うなら両者の間に矛盾はない。
しかし、新薬開発の仕事を通して人々を苦しみから救いたいという高邁な希望と、ハンサムな大富豪の三男とめぐり逢って結婚したいという玉の輿願望とは、どうしても素直に結びつかないのである。

それは、筆者が中年オヤジ的な思考から脱しきれないせいであって、こういう考え方や希望のあり様というものは、若い女性にはごく当たり前のことなのだろうか。
それとも、由香里クンは、あっけらかんと本音と建前、両方をお願いしてしまっただけなのか。
年齢差や男女の性差からくる思考のギャップというものを、しみじみ感じさせてくれる絵馬ではあった。
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