いわゆる能書きである。薬なんぞの能書きと同じく、提供側が主張するほどの効能はない。
それはさて置き。

ここで言う願かけ絵馬とは、たとえば古都の名刹の絵馬堂に掲げられた、タテ・ヨコ１ｍ以上はあろうかというような立派なもののことでは、もちろんない。
正月のお屠蘇気分の初詣のついでとか、入試合格祈願のお参りの際などに奉納される、あの小さな絵馬のことである。
小絵馬（こえま）というらしい。
数百円程度で購入した、その奉納用の小絵馬の裏に、社務所備え付けの筆ペンか何かで、思い思いの願いを書き、奉納所に掛けておくわけだ。
境内をぶらぶらしながら、その奉納所にわんさと掛けられた小絵馬を、ふたつみっつ裏返して読んでみた経験のある人も多いだろう。
真剣な願い事もあれば、ほとんどお遊び同然のものもある。
なかには首を傾げたくなるような不思議な願いや、思わず吹き出したくなる傑作もあって、正直、見飽きない。
他人のプライバシーをのぞき見するようで気も引けるが、どう見ても他人の目を意識した、つまりは見てもらうことを前提にしたとしか思えないような「ウケ狙い」の願文も、少なくないのである。
真剣な合格祈願にせよ、その場限りのおふざけにせよ、いや、気軽な気持ちで書くからこそ、願文には絵馬を奉納する人の正直な気持ちや性格、その人が置かれた状況などが表れているといってよい。
願かけ絵馬の願文には、現代人のありようと現代世相が見えるのである。
これは、各地の神社からそういった願かけ絵馬のサンプル（試料）を収集し、独自の考察を試みた学術的リポートである………というような気も、しなくはない。