願かけ絵馬の考現学
〜第十六講〜








 
吉村 勝英 四十四才を殺して下さい。
急急如律令

  無署名 
[三島市 三島大社

  パソコンでは、どうにも文字が出てこないので上のようにしたが、「急急」の最初のほうの文字は、「口」篇に「急」である。
そもそも何と読んでいいのかさえ判らなかったので、収録親字(見出し漢字)数21,000という講談社の『新大字典』(定価¥16,000)にあたってみたが、口篇に急の字なんぞ、見つからない。
仕方がないので最初の読みは「きゅうきゅう」で間違いなかろうと見当をつけ、『広辞苑』を繰ってみた。
すると、ありましたね。さすが、広辞苑。
もっとも「急急」は、口篇なしで、同じ「急」の字がふたつ続く。
で、意味であるが、まず「急急」は「急ぎに急ぐさま」。
その「急急」の見出しに続けて「――如律令」。
「きゅうきゅうにょりつりょう」と読み、「急急に、律令のように厳しくせよ」という意味で、何と悪魔退散の呪文のひとつなのだそうだ。
なんとまあ…。
これは吉村サン、かなりあくどいマネ、阿漕な振る舞いをしているのであろうか。
なにしろ、悪魔扱いなのだから。
簡単明瞭、単刀直入なお願いの仕方にも、辛抱に辛抱を重ね、考えに考え抜いたあげく、もうこれしかないという、相当な覚悟が読み取れるのである。
事情は判らないが、吉村サンには、おおいに反省を促したいものだ。
それはそれとして、この願主、女性か男性か不明であるが、かなりの教養人というべきであろう。
なにせ、「にょりつりょう」なんて言葉を知ってるんだから。
口篇に急、なんていう、定価¥16,000の辞書にも載ってない字まで知ってるんだから。
それともあれだろうか、そういう呪術関係に異常に詳しいマニアか、本格的な呪詛道の修行者ででもあるのだろうか。
いや、後者だとしたら、三島の神様にお願いなんかしないだろうから、それはあるまいな。
それにしても、気がかりなのは吉村サンの安否である。吉村サン、今も無事なのか?

<追記>
その後、読者(受講者?)の源朝臣学さんから、ご教示をいただいた。
やはり、「急急如律令の最初の急に口はつきます」とのことである。
いろいろと参考資料もご教示いただき、それによると、もともと中国漢代の公文書に記された決まり文句なのだそうである。
急急如律令と記された、大津市関津(せきのつ)遺跡出土の呪符木簡についての報告が記載された、滋賀県埋蔵文化財センターの「滋賀埋文ニュース」のURLまで教えていただくというご念の入りようで、誠に恐れ入った次第である。
なお、その呪符木簡は「急急」だそうである。
ともかく感謝。
にしても、この源朝臣学さん、まさかご本名ではあるまいね。
京都の冷泉家みたいに、その方面の伝承を業とする由緒正しい家柄だったりして。
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