願かけ絵馬の考現学
第三 








 
山添義幸が妻と一日も早く別れて、
私だけを大切にしてくれますように。
×××××の信者という立場をふりかざして
結婚まで持ち込み、挙句、
妊娠して式をあげた恥知らずな妻と
一刻も早く別れてくれますように。
山添義幸はあの妻といるより
私といたほうが幸せです。
必ず山添義幸と写真の女(妻)の縁を切り、
私との縁を結んでください。
  吉田 美和子 
[京都市 安井金毘羅宮]
  ほんとうに写真付きなのである。
おおぜいで撮った集合記念写真のようなものから、その「恥知らずな妻」の顔だけを切り取ったらしい、小さな切れっ端が貼ってあるのだ、絵馬に。
この女性は、わざわざ糊かボンド持参で絵馬の奉納に来たのであろうか。
それとも、絵馬をいったん家に持ち帰り、きちんと貼ってからもう一度納めに来たのであろうか。
どちらにせよ、その執念のほどが偲ばれる。
いわゆる三角関係というやつである。
三角関数も難しいが、三角関係も面倒だ。
ともかく、そういう記念写真があるということは、この3人、もとは同じ会社に勤めていたのだろうか。
ちなみに、×××××は由緒ある大手の西洋系の宗教であるが、ここでは敢えて伏せておく。
察するに、この山添義幸なるモテモテ男と「恥知らずな妻」さんは同じ信仰を持っていたが、美和子さんはそうではなかったのだろう。
その分だけ自分は不利で悔しい思いをしたのに、あろうことか、敵はまるで見せつけるみたいに、結婚前に義幸さんの子ダネまで宿してしまいやがったと。
その怒りたるや相当なものである。
そういう同じ信仰を持って、まだお腹の中かも知れないが子供までいる夫婦、それを別れさせようというのだ。
この執念、スサマジイのを通り越して、ソラ恐ろしい。
「山添義幸はあの妻といるより私といたほうが幸せです」ときっぱり断言するところなどにも、余人の介入を許さない、一切聞く耳持たぬという、強固な意志が見て取れる。
その毅然たる態度の前には、もうご自由にという他ない訳である。
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